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2026/06/21 ハラスメント対策として会社がとるべき行動とは ― 経営者が押さえる4つの措置義務

結論

ハラスメント対策として会社が法的に求められる行動は、明確に決まっています。大きく次の4つです。

  1. 方針の明確化と周知 ― 就業規則・規程に「ハラスメントは許さない」「行為者は厳正に処分する」と明記し、社内に知らせる
  2. 相談窓口・体制の整備 ― 誰が相談を受け、誰が判断するかを定めて周知する
  3. 発生時の迅速・適切な対応 ― 事実確認 → 被害者への配慮 → 行為者への措置 → 再発防止を行う
  4. 不利益取扱いの禁止とプライバシー保護 ― 相談したことを理由に不利益な扱いをしない

これらはパワハラ・セクハラ・マタハラについて、すでに全企業の義務です。さらに2026年10月からはカスタマーハラスメント(カスハラ)対策も義務に加わります。

ポイントは、これを「形式」ではなく「実効性のある形」で整えることです。以下、経営者が押さえるべき要点を整理します。


1. まず押さえる:対策が義務となるハラスメント

法律上「職場における防止措置」が義務づけられているハラスメントは、次のとおりです。

種類根拠法義務化の状況
パワーハラスメント労働施策総合推進法 第30条の2中小企業を含め2022年4月から全面義務化済み
セクシュアルハラスメント男女雇用機会均等法 第11条義務化済み
妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(マタハラ等)均等法 第11条の3/育児・介護休業法 第25条義務化済み
カスタマーハラスメント(カスハラ)改正労働施策総合推進法2026年10月1日から全企業で義務化

カスハラについては、従業員を1人でも雇用していれば対象で、企業規模による猶予はありません。今あるパワハラ・セクハラの体制に、カスハラ対応を上乗せして整えるという発想で準備を進めるのが現実的です。


2. 会社がとるべき4つの行動(措置義務の中身)

① 方針の明確化と周知・啓発

  • 就業規則・服務規程に、ハラスメントを行ってはならない旨と、行為者を厳正に処分する旨を明記する
  • その内容を、全従業員(正社員だけでなくパート・契約社員・派遣社員を含む)に周知する
  • 経営トップ自らが「許さない」というメッセージを発信する

服務規程の例:「優越的な関係を背景に、業務の適正な範囲を超える言動により、他の従業員に精神的・身体的苦痛を与え、就業環境を害してはならない」といった条項を置く。

② 相談窓口・体制の整備

  • 相談窓口を設置し、誰が窓口かを周知する
  • 窓口担当者が適切に対応できるよう備える(外部の専門家窓口を併用する方法も有効)
  • 「誰が相談を受け、誰が事実を確認し、誰が判断するか」という組織体制を、あらかじめ図にして共有しておく

相談窓口は「設置した」だけでは機能しません。相談しづらい雰囲気の窓口は、ないのと同じです。実態として相談が上がってくる窓口になっているかが問われます。

③ 発生時の迅速・適切な対応

ハラスメントの相談・申告があった場合は、次の順で対応します。

  1. 事実関係を迅速・正確に確認する(相談者・行為者の双方から丁寧に聴き取る)
  2. 被害者への配慮措置を講じる(被害者と行為者の引き離し、メンタル面の配慮など)
  3. 行為者への措置を講じる(就業規則の懲戒規定に基づき、程度に応じて処分)
  4. 再発防止措置を講じる(研修、注意喚起、体制の見直し)

④ 併せて講ずべき措置(不利益取扱いの禁止・プライバシー保護)

  • 相談者・行為者のプライバシーを保護する
  • 相談したこと等を理由に、解雇その他の不利益な取扱いをしてはならない(法律で明確に禁止されています)

3. 就業規則との関係 ― ハラスメント対策の土台

ここまでの「会社がとるべき行動」は、そのほとんどが就業規則(および関連規程)と結びついています。就業規則は、ハラスメント対策の土台です。

なぜ就業規則が出発点なのか

  • 措置義務の第一歩である「方針の明確化」は、就業規則・規程への明記から始まる
  • そして、行為者を懲戒処分するには、就業規則の懲戒規定に根拠が必要です。根拠規定がなければ、たとえ悪質なハラスメントでも処分できない(または処分が無効と判断される)リスクがあります

就業規則に定めておくべき4つの事項

定める事項内容
① ハラスメント禁止の服務規律パワハラ・セクハラ・マタハラを禁止する条項。カスハラから従業員を守る方針も明記
② 懲戒事由としての明記ハラスメントを懲戒事由に位置づけ、訓告・出勤停止・懲戒解雇等の対象であることを規定
③ 相談窓口・対応の手続窓口、相談から事実確認・処分までの流れ
④ 不利益取扱いの禁止相談したこと等を理由に不利益な扱いをしない旨

特に見落とされがちなのがです。「禁止する」とは書いてあっても、懲戒規定と結びついていないために、いざというとき処分できない就業規則は少なくありません。

就業規則本体に書くか、別規程にするか

  • 詳細は「ハラスメント防止規程」として別に定め、就業規則本体から委任する形が一般的です
  • 別規程にしても、就業規則の一部として同じ効力を持つため、後述の手続が必要になります

よくある3つの落とし穴

  1. 懲戒規定と結びついていない ― 禁止条項はあるが、処分の根拠がない
  2. 周知されていない ― 規程はあるが従業員に知らせていない。周知を欠く就業規則は効力が認められないことがあります
  3. 古いひな形のまま ― 2026年10月のカスハラ義務化に対応していない

変更には手続が必要(社労士の領域)

就業規則・規程の作成や変更には、従業員代表(過半数代表者)からの意見聴取、常時10人以上を使用する事業場では労働基準監督署への届出、そして従業員への周知が必要です。「条文を足して終わり」ではない点にご注意ください。


4. 最も判断が難しい「指導とパワハラの線引き」

経営者・管理職が最も悩むのが、「正当な業務指導」と「パワハラ」の境界です。

パワハラに該当するのは、次の3つの要素をすべて満たすものです。

  1. 優越的な関係を背景とした言動である
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動である
  3. 労働者の就業環境が害される

逆に言えば、客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な指導は、パワハラには当たりません。問題は「相当な範囲」をどこで引くかです。

判断にあたっては「平均的な労働者の感じ方」を基準とします。また、頻度や継続性は考慮されますが、強い苦痛を与える言動は1回でも該当しうる点に注意が必要です。

この線引きを判断する立場の管理職が正しく理解しているかが、対策の実効性を大きく左右します。


5. 放置した場合に会社・個人が負うリスク

ハラスメントを軽視・放置した場合、責任は行為者個人だけでなく会社にも及びます。

対象負いうる責任・損失
行為者個人民事上の損害賠償責任(民法709条 不法行為)/態様によっては刑事責任/社内の懲戒処分
会社使用者責任を問われ賠償・和解費用が発生/人材の流出/採用力・取引・信用への悪影響

「会社は把握していたのに有効な措置を講じなかった」と評価されれば、会社の責任はさらに重くなります。体制を整えておくこと自体が、会社を守る防御策になります。


6. 経営者がいま着手すべきチェックリスト

自社の対応状況を、以下で点検してみてください。

  • ☐ 就業規則・服務規程にハラスメント禁止と厳正対処の条項があるか
  • ☐ 禁止条項が懲戒規定と結びついていて、実際に処分できる形になっているか
  • ☐ その内容を全従業員(非正規・派遣を含む)に周知しているか
  • ☐ 相談窓口を設置し、窓口を周知しているか
  • ☐ 「相談 → 事実確認 → 判断」の組織体制が明確になっているか
  • ☐ 管理職が「指導とパワハラの線引き」を理解しているか
  • ☐ 2026年10月のカスハラ義務化に向けた方針・対応を準備しているか

ひとつでも「できていない」項目があれば、早めの整備をおすすめします。


まとめ

  • 会社がとるべき行動は、①方針の明確化②相談体制③発生時の対応④不利益取扱いの禁止の4つ
  • これらの土台は就業規則。特に懲戒規定と結びついていないと、いざというとき処分できない
  • パワハラ・セクハラ・マタハラは全企業で義務化済み、カスハラは2026年10月から義務化
  • 最大の難所は「指導とパワハラの線引き」。管理職の理解が実効性の鍵
  • 体制を整えること自体が、いざというとき会社を守る

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